お知らせInformation

お知らせ

寄稿「専門職大学とは」ビューティ&ウェルネス研究所 籔内佐斗司

専門職大学とは

ビューティ&ウェルネス研究所所長 籔内佐斗司 

 

私が卒業した東京藝術大学は、1887年創立の東京美術学校と東京音楽学校という二つの専門学校が戦後に合流して新制大学となりました。美術学部と音楽学部の二つの学部があるということで、College(単科大学)ではなくUniversity(総合大学)で、公式の英語表記もTokyo University of the Artsです。しかし殆どの専攻は音楽や美術・工藝などの実技中心のカリキュラムとなっていますし、大学の規模からもTokyo College of the Artsの方が相応しいと学生の頃から思っていました。そして、2019年に新たに「専門職大学(せんもんしょくだいがく Professional and Vocational Universities)」制度ができたとき、もしも今、東京藝術大学を新たに認可申請するのであれば、こちらの方が相応しいと思いました。

 

この専門職大学は、1964年に導入された短期大学以来の制度改革になり、これからの高卒者は、従来の大学、短大、専門学校および大学校のほかに、実学専修の専門職大学へと選択肢が拡がりました。設置基準として、教員の4割以上を実務家が担当することが定められ、履修科目も実習・演習や実験等が4割を占めて、卒業時には「学士(専門職)」の学位が付与されます。なお、「専門職大学」とよく似た性格の「大学校」は、防衛大学校や消防大学校などがよく知られますが、成り立ちを全く異にする教育機関です。所管が文科省ではなく、その他の官庁や自治体、各種法人などで、それぞれで即戦力となる専門技能と知識を修得する機関として、学生は公務員や職員扱いで俸給も支払われます。

 

さて、公務員や大企業で働くひとは、採用の時点で「総合職(幹部候補)」「一般職(ほぼすべてをカバーできる事務職)」「専門職(専門技能や資格を有する者)」に分かれます。これは国家公務員試験の「総合職試験合格組(キャリア)」と「一般職試験合格組(ノンキャリア)」および「専門職(資格や技能の有資格者)」の区分が基になっています。もちろんキャリア組は幹部候補職員として待遇や昇進で優遇され、課長クラス止まりのノンキャリア組や専門職とは別の道を歩みます。

 

 

そして、現在のIT分野の絶望的な人材不足は20年以上前から確実視されてきたことですし、農林水産業の現場に貢献できる専門職は渇望されて久しいことでしたから、実学専修の高等教育機関の設置は永年の夢でした。研究室や書物だけの研究者や、事務仕事ならなんでもこなせる一般職ではなく、専門職として現場で即就業できる人材は貴重です。「森は海の恋人」運動で知られる気仙沼の牡蛎養殖業者の畠山重篤さん(京都大学フィールド科学教育センター社会連携教授)などは、そうした実学研究者の理想形といえます。

 

2022年度までに開学した専門職大学と専門職短期大学は全国に36校あり、国際ファッション専門職大学(ファッション等)、情報経営イノベーション専門職大学(情報工学等)、開志専門職大学(アニメ・マンガ等)、東京保健医療専門職大学(リハビリ等)、芸術文化観光専門職大学(芸術・観光等)など、時代に対応したものです。ただ、やむをえないこととはいえ、時代の需要を先取りしているというよりは、やや後手に回っている感があるのは残念です。もともとわが国の美術・工芸や建造物をはじめ民俗文化まで含んだ殆どの文化財は、極めて高度な技能と豊かな経験を持った職人が創り上げてきたもので、日本はまぎれもなく専門職人の国でした。この新しい専門職大学が、現代の優れた職人の復権の場となることを願っています。またそれ故に、専門分野以外の「教養(Liberal Arts)」や「情操教育(Social and Emotion Education/SEL)」もとても大切です。 

 

私は、ミスパリ学園ビューティ&ウェルネス専門職大学設立のお手伝いをして3年目になり、紆余曲折の末、このたび認可の運びとなりました。これは、ミスパリが、美容とウェルネス産業の分野で、世界を牽引できる人材や産業の育成を目指して設立しようとするものです。コロナ禍前に美容やウェルネス産業は420兆円という巨大市場と試算され、コロナ騒ぎが収まれば再び活況を呈することはまちがいありません。しかし、ビューティ&ウェルネス分野という前例のない専門職大学でもあり、大学設置審議会から理念や組織、履修科目等をたいへん厳しく問われ、関係者の尽力はたいへんなものでしたが、いよいよ来年の4月からは新入生を迎えます。私も教養系科目を担当しますが、50歳以上年齢の離れた若者たちにどう向き合えばいいのか、心配でもあり楽しみでもあります。これからますます需要が高まる「美に包まれて健康で幸せに生きること」に、大いに貢献したいと願っています。(2022.9.2)

ページトップへ戻る